アギトアリという大型の蟻、知ってますか?
日本で大型の蟻といえば「クロオオアリ」が有名です。しかし今回ご紹介する蟻はアギトアリという大型のハリアリです。あまり聞き馴染みが無いですよね。
アギトアリは大きな顎とフォルムが特徴的で一風変わった姿をしています。そういったことから、アリ好きの中では人気が高い種類でもあるのです。
今回は、そんなアギトアリについて、特徴や生息場所、更には飼育方法についても解説していきます!
目次
アギトアリってこんな蟻
アギトアリ(Odontomachus monticola)は森林に生息するハリアリ亜科アギトアリ属の蟻です。都会や街中ではどこを探しても見つかりません。レアといえばレアな蟻なのですが、そもそも、生息分布が少ないので見つからない訳です。
体長は10mmほどと日本のハリアリの中では最大で迫力があります。体色は全体的に黒褐色で赤みを帯びます。
分布
屋久島や種子島、口永良部島、鹿児島県本土が中心ですが、本州や四国、九州でも一部地域で生息が確認されている不思議なアリです。
そもそも、種子島・屋久島地方だけに元々分布していたというのがちょっと特殊な気がします。本州のアギトアリは果たして人為的な持ち込みなのか、古来から生息していたのかは不明ですが、大都市圏近郊の緑豊かな山地や森林で見つかっているというのがちょっと変な感じがしますよね。一般的には、国内外来種(移入種)と捉えられているようです。
アギトアリは大型のアリ
体長は1cmほどです。普通のアリと比べると大きい部類ですよね。見かけたらすぐに気付くはずです。
アギトアリの女王アリ
アギトアリの女王アリは体長は働きアリとほとんど変わりません。外見上の異なる点は、胸部の大きさと形です。女王アリにはもともと翅が付いているため、翅が付いていた名残(脱翅痕)が見られます。※胸部のわずかに赤い部分が脱翅痕です。
また、働きアリに比べ、胸部が大きい点も区別のポイントです。
アギトアリの働きアリ
女王アリと異なり、働きアリの胸部はスマートです。写真を見分けると違いがよく分かるのではないでしょうか。
当サイトにお問い合わせいただいたアギトアリの生息報告のほとんどは、実はアギトアリではないという事実があります。そのほぼ全てがアリグモという蜘蛛の一種と間違われてご連絡いただいております。
「家の中にアギトアリがいた!」と思われても、まずは本当にアギトアリか、アリグモではないか、をまずは確認してみましょう。
アギトアリは周りの動きよりもゆっくり動く
そしてアギトアリはフィールドでゆっくり滑らかな動きをします。危険があるときは俊敏な動きをしますが、普段からせわしなく歩いている他の蟻と比べるとおおらかな印象です。
アギトアリの大きな特徴
アギトアリといえば、大きな顎です。クワガタのような顎を持っているため見た目がすごくワイルドですよね。
この顎は実は180度開くことができ、獲物を瞬時に捉えることができます。顎を閉じるスピードは生物界最速と言われているほどです。
(追記:2018年、アギトアリよりも速いスピードで顎を閉じるアリが確認されました。ノコギリアリの仲間で、秒速90mのスピードで大顎を閉じるそうです。)
顎の内側の感覚毛に獲物が触れるとトラバサミのように瞬間的に顎を閉じて獲物を捕らえます。
閉じた瞬間、パチン!と音がなるのでその速さを実感します。獲物を捕らえること以外にも、顎の反動を活かして逃げる時にも使います。パチン!と閉じた瞬間、アギトアリ自身が宙に舞って真後ろに逃げることができるのです。
お腹の先端には毒針
ハリアリの仲間ですから、腹部の先端には毒針を持っています。私は刺されたことが無いですが、日本に多くいる”オオハリアリ”よりも痛いらしく、素手で触るのは避けたほうがよさそうですね。
飼育観察をしていると、獲物を大あごでとらえたあとに毒針で執拗に攻撃する様子を確認できます。
本州のアギトアリ
では、関東に住んでいる私の場合、アギトアリを観察できるポイントはあるのでしょうか?実は本州や九州、四国のいくつかの箇所はアギトアリの生息が確認され、公表されています。また、ネット情報なども合わせると、アギトアリが確認されているのは、下記のとおりです。
- 福岡県北九州市
- 高知県佐川町
- 岡山県赤磐市
- 大阪府箕面市
- 三重県いなべ市
- 静岡県富士宮市
- 神奈川県横浜市金沢区
- 東京都武蔵村山市
追記:2020年11月30日
高知県佐川町で四国では初めてアギトアリの生息が確認されました。民家の床を翅のついた女王アリが這っているところを発見されたようです。
日本に生息するアリの中では最大級のアギトアリがこのほど、四国では初めて高知県高岡郡佐川町で確認された。森林にすむアリで、体長は1センチ超になりクワガタムシのようなアゴを持つのが特徴。生息範囲を調べるため、研究者が情報提供を求めている。
引用:高知新聞
現在、生息していると言われているのは上記です。しかし実際にはもっといろいろなところに生息している可能性があるかもしれません。しかし、上記の地域でも生息箇所はごく一部に限られておりアギトアリを生で見るのは困難です。
ただ、ネット上ではおおよその生息場所を示しているページも見られるため、それらを参考にすればアギトアリの生息地を見つけられるかもしれません。(※)
※地域により住宅街に隣接している事もあるため、近隣住民の方々に配慮し、こちらでは詳細を控えております。
野生のアギトアリ
自然環境では、森林の林床に巣があります。例えば石や倒木の下などです。ゴミや土嚢などの下に巣があることもあります。
このような場所にアギトアリは多いですね。行列で行動するのではなく、単独で行動しています。
昆虫や仲間の死骸をくわえるアギトアリ。
今のところアギトアリには駆除や移動が制限されてはいません。そのため採集することも可能(採集禁止の区域以外)です。
その土地の在来種を狩る蟻としての側面
私自身、何度もアギトアリを観察していますが、興味深い光景を何度か見ることがあります。それが、クロナガアリなどの在来種を食料として狩る姿です。
もともと、小昆虫類を狩るのに適した大顎を持ちそれらをエサとするアギトアリですが、蟻をもターゲットにするのです。
本州などのアギトアリは国内外来種であるため、その土地の在来種にどう影響するのかが今後懸念されるかもしれません。
飼育方法
アリの飼育は比較的簡単ですが、アギトアリについては飼育難易度がやや高いです。
購入したり採集によりアギトアリを入手できたとしても、結局全滅させてしまう可能性があります。そのため、アリ飼育に慣れている方を除き、初心者の方の飼育はあまりオススメできません。
ですが、アギトアリの飼育が不可能という訳ではありません。
また、普通の蟻の感覚では飼育することができませんが、ハリアリの飼育に慣れている方についても問題ないと思います。
ここからは、現在私が飼育しているアギトアリの飼育方法について簡単にご紹介いたします。この飼育方法はアギトアリを譲っていただいた方から教えて頂いた方法となります。この飼育方法以外にも数多くの飼育方法がネット上で公開されていますので、一つの方法として参考にしていただけると幸いです。
飼育ケース
まず、飼育ケースはダイソーのプラスチック製透明ケースを使用しています。高さ150mm、幅280mm、奥行き190mmと比較的大きなサイズで1個300円で購入することができます。
蓋には網を取り付け、通気性を持たせています。加工の方法については、こちらの記事が参考になります。
そしてこちらが飼育ケースのセッティングです。
大きく分けて「山エリア(巣)」「乾燥地エリア(エサ場、廃棄場)」2つのフィールドに分けています。
山エリア
赤玉土を砕いて水分を含ませた土を山になるように盛ります。
赤玉土は細かくしたほうがアギトアリたちにとって巣作りしやすいようです。
そして、ある程度締固めながら山を作ります。上写真のように石を置くと石下に巣を作ってくれます。
また、飼育が長期に渡ると、複数の穴が土表面に作られます。これらは巣の入り口となっており、山エリア全体が巣になっていく様子も観察することができます。
更に、飼育ケースの側面からは、地中の巣も観察可能です。アギトアリは自分たちで土を移動させながら地中に巣をつくります。その中の様子を見られるのは山型の土巣ならではですね。
ちなみに、ケース内の試験管はアギトアリを引っ越しさせる際に使用した試験管石膏巣です。引っ越し後も巣の一部としてアギトアリたちが活用しているため、ケースから取り除かずに設置しています。中の卵も観察することができるので、土巣と石膏巣の組み合わせは意外と良いかもしれません。
乾燥地エリア
乾燥地エリアを作る理由は、ゴミ(昆虫の死骸)を乾燥地に廃棄してくれるからです。飼育ケース全体が湿っていると、ゴミが廃棄される場所も湿っていることになります。そのとき怖いのがダニの発生と臭いです。
こうやってケース半分を乾燥させれば、アギトアリたちはゴミを乾燥した土の上に廃棄します。そして、廃棄されたゴミは定期的に取り除きさえすれば衛生的に飼育することが可能です。
飼育ケースの管理方法
飼育ケースの管理は定期的に行います。特に、山エリアの土の乾燥は禁物です。通常は霧吹きを使って土表面を湿らせます。これを欠かさず行います。
ただし、通気が悪いとカビなどが発生する可能性があるため、上記でご紹介したとおり通気性をケースに持たせることが重要です。
また、エサの交換もこまめに行います。食べかすや死骸を見つけたら、その場で取り除きます。
アギトアリのエサ
アギトアリはエサの好き嫌いが激しいことで有名です。しかし、実際には数種類のエサをローテーションすれば問題なく飼育することができます。
いくつかのコロニーを飼育して何となく感じるのは、小コロニーや新女王の場合はエサの好き嫌いが激しい、大きいコロニーの場合は好き嫌いが少ない、といった印象です。
まず、小型の生きた昆虫を与えるのが基本です。
- デュビア(SSサイズ)
- レッドローチ(Sサイズ)
この2つが私の飼育するアギトアリの食いつきが良いです。サイズも丁度良く、そのまま与えることが可能な点がメリットですね。
その他、たまに与える昆虫は下記などがあります。
- ミルワーム(3等分にする)
- ヤマトシロアリ
- ジムカデ
- 甲虫類の幼虫
ミルワームは硬く大きいので1/3にカットしてから与えます。そのため、劣化が早く不衛生になりがちです。シロアリは小さいため大きなアギトアリのコロニーにはやや不向き。ただし食いつきは良好です。ジムカデや甲虫類の幼虫は、小さなものが手に入れば非常に食いつきが良いです。
他にも、コバエ、カゲロウなど室内に侵入してきた虫も与えています。
同じエサを与え続けると飽きて食べなくなります。そのため常時、3種類以上のエサを準備しておくと安心ですね。
蜜エサも食べる
基本は肉エサ(小昆虫)を与えますが、プロゼリーなどの甘いエサも好んで食べます。可能であれば、そういった蜜エサ類も定期的に与えるとエサ飽きを予防できるかもしれません。
アギトアリ飼育の注意点
あまりケースを動かさない
飼育していると気付きますが、アギトアリはあまり動きません。なので、蓋を開けて確認してしまいがちですが、これが原因か分かりませんがストレスにより巣が崩壊することがあります。
また、自然界では日中も活動している姿をよく目にしますが、アギトアリは夜行性と言われています。そのため、常に明るい場所での飼育はストレスになる恐れがあります。
掃除ができない=清潔を保つ必要性
蟻は綺麗好きなイメージですが、アギトアリは掃除ができないアリです。エサの残骸を散らかして放置することが多く、カビや悪臭、ガス発生の原因となります。こまめに掃除をすることが重要のようです。
ダニなどの増殖
採集したコロニーにダニなどが付いていると飼育容器内でダニが増殖します。また、ダニがいなくても不衛生にしているとダニが湧き始めます。
全てに言えるわけではないかも知れませんが、このようなコロニーは長持ちしない傾向です。
我が家のアギトアリたち
こういった点に注意をして飼育すれば、アギトアリの飼育も不可能ではありません。また、今回ご紹介した赤玉土での飼育以外にも、石膏巣での飼育など別の方法も存在します。自分の好みの飼育方法でアギトアリの飼育にチャレンジしてみてください!
ちなみに、現在私が飼育中のアギトアリコロニーは、女王アリ1頭、働きアリ50〜60頭、卵・幼虫複数、という構成になっています。
まとめ
特殊なカタチと大きさから、日本のアリとは思えないアギトアリですが、生態も含めて魅力的なアリではないでしょうか。人為的な持ちこみによる分布域の広がりは良いことではありませんが、もしかしたらあなたの近くの森にも生息しているかもしれません。大きな顎を持った細長いアリを見かけたら、じっくり観察してみると面白い発見があるかもしれませんよ。