アリで農作物に被害が起きているのをご存知ですか?
アリは虫や蜜などを食べる昆虫ですから農作物被害とは無縁なんじゃない?と思いますよね。
しかし、近年本州などでもトビイロシワアリによる農作物被害が報告され始めているのです。
今回は、アリの農作物被害について解説していきます!
目次
アリの農作物に関する問い合わせが
少し前から、家庭菜園や学校で農作物栽培の授業をされている方からアリによる農作物の被害についてのご質問をいただくようになりました。
この時、恐らくトビイロシワアリだろう、とおおよその見当がついていたのですが、写真を見るとやはりトビイロシワアリなのです。
トビイロシワアリはどんなアリ?
トビイロシワアリというアリは特に珍しいアリではなく、関東以西では最も一般的なアリの一種です。また、北海道から九州まで広く分布する日本を代表するアリとも言えます。
体長は2.5mmと小さく黒褐色のアリで、公園やお庭などには必ずと言っていいほど目につくため、あまり農作物害虫という認識を持っている人は少ないでしょう。
巣は土中や草本の根元、石の下でよく見られます。食性は雑食性で、昆虫の死骸やアブラムシの甘露、植物の樹液などを中心に、人間が捨てた食べ物、油分を含んだもの、甘い飲み物なども好んで食べます。
トビイロシワアリの農作物被害とは?
では、トビイロシワアリはどのような農作物被害を引き起こすのでしょうか。
お問い合わせにあった作物は、どれもジャガイモです。
地中のジャガイモや地下茎を齧られたり穴を開けられる被害に遭われる、というのがトビイロシワアリによる被害なのです。
様々な農作物での被害報告がある
実はジャガイモだけでなく、ほかの農作物被害も報告されています。
具体的には、キャベツやブロッコリー、ハクサイ、アスター、ナスなどです。
これらはほとんどが地際や地中の根表面を齧られる被害を受けており、生育不良や枯死などの影響が出ています。
定植されたキャベツ及びブロッコリーの苗の根元が加害されて枯死する被害が発生した。地際部には多数のアリと食害痕が確認された。採取したアリの形態的特徴からトビイロシワアリであることが判明した。
引用:埼玉県特殊報「トビイロシワアリ」
南信地域の露地栽培ブロッコリーにおいて、地際部から枯れ込む症状が見られ、掘り返したところアリが大量に発生していた。
名古屋植物防疫所に同定を依頼した結果、トビイロシワアリであることが判明した。
本種は屋久島以北の日本各地に分布しており、これまで福岡県、千葉県、広島県、香川県、 佐賀県、長崎県、山口県、滋賀県、群馬県、茨城県、静岡県および埼玉県の 12 県で農作物への 被害報告がある。
引用:長野県病害虫発生予察特殊報
ヒトに害は無い
トビイロシワアリの人に対する害はありません。毒も持っていないため、仮に素手で触ってしまっても問題はありません。
被害対策・防除方法はあるのか
残念ながら現在のところ、トビイロシワアリを対象とする登録農薬はないため、深耕や潅水など、物理的な防除による巣、コロニーの破壊しか対策方法はありません。
家庭菜園や学校の菜園などの場合は、定期的に地際などに異常がないかを確認することが大切です。
家庭でのトビイロシワアリ駆除なら市販薬がある
家庭の庭や室内に発生したトビイロシワアリであれば、市販の殺蟻剤が有効です。特に、スーパーアリの巣コロリなどのベイト剤は巣全体を駆除できるため最もおすすめできます。
ただし、無闇に使用するとお庭などの生態系を崩すことになるため、何かしらの被害が出ている時だけ使うようにしましょう。
そもそも、アリによる農作物被害は多いの?
今のところ、農作物害虫として広く認知されていることはありません。
実際、このトビイロシワアリによる被害についても散発的に報告が上がる程度のようで、大損害になる、という状態には無いと思われます。
もっとも、トビイロシワアリはお庭や公園、畑など明るく開けた土地ならとても濃い密度で生息する蟻です。
ですから、全てのトビイロシワアリがこのように農作物を齧るかといえば、決してそうでは無いのです。その点は十分に理解する必要があるでしょう。
農作物被害を引き起こす外来種の脅威
このように、日本ではトビイロシワアリの農作物被害が各地で報告されています。被害は小規模かつ単発であるため拡大する可能性はそこまで高く無いと思われます。
しかし、この先気をつけなければならないアリが日本に侵入しつつあります。それがアルゼンチンアリやヒアリです。どちらも特定外来生物に指定されています。
アルゼンチンアリ
このアリはすでに日本各地に定着しており、広島県、兵庫県、山口県、大阪府、愛知県、岐阜県、神奈川県、京都府などで報告されています。
アルゼンチンアリは競争力や繁殖力が高いため、定着地域では在来のアリが駆逐されて数が著しく減少すると言われています。これがアルゼンチンアリが問題とされる理由です。
そして、アルゼンチンアリがその地域に増えると農作物への影響も心配されます。実際に、植物の芽や蕾、種子の被害が海外で報告されています。
また、アブラムシなどと共生関係にあるため、アルゼンチンアリが植物に付着したアブラムシなどを保護する可能性があります。
これら害虫の増殖を招く恐れがあるため、こちらも農作物被害との関連性があると言われています。
アルゼンチンアリは、農作物の芽や蕾、花等の植物体を傷つけたり、果実に集まり種 子を持ち去ることがあります。北米ではカンキツ類やイチジクの芽を弱らせ、キャベツ やサトウキビ、トウモロコシ等の種子を食害している例があります。
こうした直接的な被害だけでなく、農業害虫にもなるアブラムシ類やカイガラムシ類 などの分泌する甘露3を好むアルゼンチンアリは、これらの昆虫を外敵から保護するた め、アブラムシ類・カイガラムシ類による農作物への被害を助長しているという例がア メリカ合衆国や南米、南アフリカにおいて報告されています。
引用:環境省アルゼンチンアリ防除の手引き
ヒアリ
ヒアリが侵入・定着したアメリカなどでは、さまざまな農作物への直接的な被害や、牧草地への被害がおきています。
日本において農地などへの定着は現時点(2020年10月)で確認されていませんが、今後十分に注意する必要があると言えます。
まとめ
日本におけるアリの農作物被害について簡単に解説させていただきました。
せっかく自ら栽培したジャガイモやキャベツが枯死たり、穴だらけになった姿を見ると、ショックですよね。
でも、家庭菜園レベルではトビイロシワアリというアリが稀に農作物の根に被害を与える程度です。そのため、不用意に恐れる必要はありません。ただし、トビイロシワアリの農作物被害報告も年々増えている印象があります。また、特定外来生物であるアルゼンチンアリやヒアリによる脅威が迫っているのも事実です。
アリによる農作物被害の可能性があることは十分に把握しつつ、今後の最新の情報も定期的に把握しつつアリたちと付き合っていきたいですね。