日本の最普通種、クロヤマアリ。東京でも1番目にする機会があるアリですよね!
私たちの生活にも密接に関わっている種類のアリでもあります。俗に言う「クロアリ」は、このクロヤマアリを指すことが多いですしね。
しかし、実はクロヤマアリは意外と知られていない特徴も存在します。
そこで、この記事ではクロヤマアリの特徴や女王アリからの飼育について解説します!
目次
私が飼育管理しているクロヤマアリ
まず、私が飼育中のクロヤマアリをご紹介します!
現在のコロニーは5年目のコロニーと2年目のコロニーの2コロニーを飼育しています。
5年のコロニーは、新女王1匹の単雌から飼育を始めて現在は数百匹の働きアリで成り立っています。
2年目のコロニーはまだ初めての冬越し中の小さなコロニーです。こちらも新女王アリから飼育して現在は10匹程度の働きアリたちがいます。
ということで、ここからは私自身がクロヤマアリを日々観察しながら感じたことも含めてお話していきます。
クロヤマアリとは?
クロヤマアリ(Formica japonica)はヤマアリ亜科ヤマアリ属のアリです。
和名・学名 | クロヤマアリ/Formica japonica |
---|---|
生息地 | 北海道、本州、四国、九州、伊豆諸島、大隅諸島(種子島)など |
体長 | 働きアリ:4.5~6mm、女王アリ:10mm前後 |
体色 | 黒色から黒褐色(灰色がかる) |
営巣環境 | 明るい草地などの土中や石下 |
結婚飛行時期 | 東京では6月ごろが中心(5月〜7月に見られる) |
働きアリの大きさは4.5mm〜6mmほどで肉眼でも見つけやすい大きさをしています。女王アリは私が採集したもので10〜11mmほどでした。
体色は黒色(黒褐色)ですが全体的に光沢がなく灰色に見えることがあります。
クロヤマアリの仲間には、ハヤシクロヤマアリやヤマクロヤマアリ、ツヤクロヤマアリ、タカネクロヤマアリなどがいますが、その中でクロヤマアリは最も光沢が鈍くマッドな質感です。
クロヤマアリの隠蔽種群
クロヤマアリはさらに複数の種類に分かれると言われています。
各地の個体の体表炭化水素から、形態的に識別困難な隠蔽種4種”クロヤマアリ、ヒガシクロヤマアリ、ニシクロヤマアリ、ミナミクロヤマアリ”に分けられるそうです。
こちらのページではこれら4種を総称して”クロヤマアリ”としてお話させていただきます。
クロヤマアリの働きアリ
先述の通り、働きアリの体長は4.5〜6mm程度です。屋外で観察すると、非常に素早い動きで地面を徘徊する姿を見ることができるでしょう。
公園の開けた広場を単独で移動するところや、歩道沿いを歩く姿をよく見かけます。
クロヤマアリの女王アリ
女王アリは10mm前後の大きさです。働きアリよりも全体的に大きく、特に胸部が発達しています。
また、クロヤマアリの中にはこれよりも小型の女王アリもいると言われています。私は撮影したことはありませんが、7mm前後の個体が見られるようです。
クロヤマアリはどこにいる?分布について
生息域は沖縄など琉球列島を除く日本全土に渡ります。
ただし、先述の通りクロヤマアリは隠蔽種群として4種に分かれることが知られています。
クロヤマアリ | 北海道から東北日本海側 |
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ヒガシクロヤマアリ | 主に東日本(東北から関東甲信越) |
ニシクロヤマアリ | 主に西日本 |
ミナミクロヤマアリ | 主に九州 |
営巣場所は開けた土中
クロヤマアリは開けて風通しが良い場所の土中に巣があります。学校の校庭や公園の広場、お庭、駐車場、道端、畑などですね。
人の生活導線とも密接に関わる場所によく営巣するため、私達人間にとって最も身近なアリの種類でもあるのです。
クロヤマアリの結婚飛行
クロヤマアリは私の住む東京では5月から7月にかけて結婚飛行が行われます。早いと5月でも結婚飛行が見られることがありますね。実際に私も5月から7月にかけて同じ地域で翅を落とした新女王を観察しています。
主に午前中に結婚飛行が行われ、正午から午後には羽を落とした女王アリを見ることができます。道路上や公園などいたるところで採集が可能です。
飼育は関東地方で採集した個体であれば女王アリ単独で、石膏巣や試験管巣を用いた飼育がおすすめです。1ヶ月ほどで最初の働き蟻が誕生します。詳しくは後述します。
クロヤマアリのさらに細かい特徴は、日本産アリ類画像データベースに詳しく掲載されています。
クロヤマアリの飼育
ここからは、クロヤマアリの飼育についてご説明していきます!
クロヤマアリは飼育が比較的容易な種類のため、アリ飼育が初めての方でも飼育が可能です。また、日本全国が生息エリアでもあるため、室温管理が可能です。
ただし、注意すべき点や知っておくべきことがあるのも事実です。なので、初心者の方でも分かるようになるべく細かく解説していきます!
クロヤマアリの入手方法
クロヤマアリはアリ飼育の中でも人気の種類です。そのため、自ら採集しなくてもネットショップから購入することができます。
もちろん、女王アリを採集することも、コロニーごと採集することも可能です。
以下に、クロヤマアリを入手する方法を4つ挙げます。
- アリ専門のネットショップで購入する
- ヤフオクで購入
- 女王アリを採集する
- コロニーを(巣ごと)採集する
私のオススメは、「ネットショップで購入して手に入れる方法」と「女王アリを採集する方法」ですね。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
アリ専門ネットショップで購入 | ・容易に入手できる | ・時期により完売している ・購入コストがかかる |
ヤフオクで購入 | ・安く入手できる | ・品質の差が激しい |
女王アリを採集 | ・コストがかからない ・愛着がわく |
・結婚飛行時期しか採集できない ・(採集できる)確実性がない |
コロニーを採集 | ・最初から安定しているため飼育難易度が低い | ・(採集できる)確実性がない ・初心者には難易度が高い |
それぞれ、メリット・デメリットがありますが、それぞれの特徴がありますのでそれらを理解した上で購入・採集にチャレンジしてみてくださいね!
ちなみに、自力でクロヤマアリを採集する場合、新女王アリは先述の通り5月から7月ごろに結婚飛行後の女王アリを採集することができます。
コロニーごと採集する場合は、春先などの暖かい日中に石の下で暖を取っているコロニーを採集することができます。
飼育スケジュール
以下は私の飼育環境です。基本的に室温飼育で管理しています。
室温 | エサ頻度 | エサ種類 | |
---|---|---|---|
春、秋 | 室温飼育(20度〜25度) | 2〜3日に1度 | 蜜・小昆虫 |
夏 | 25~30度。私の家では28度 | 毎日 | 蜜・小昆虫 |
冬 | 越冬(15度くらい) | 3~7日に1度 | 蜜(3月以降小昆虫も) |
新女王アリから飼育を始めた場合の飼育参考例
採集日 | 6月8日に新女王アリを採集。石膏巣での飼育開始。 |
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産卵 | 6月10日に産卵を確認。エサなどは与えず、加湿管理のみ。 |
孵化〜蛹化 | 採集から20日ほどで蛹化を確認。 |
羽化 | 採集から約1ヶ月で働きアリが羽化。 |
10月ごろ | 50匹以上の働きアリが誕生。 |
数年前、私が飼育していたクロヤマアリの経過はこんな感じです。このコロニー(新女王アリ)は最初から調子が良く、1年目で大きなコロニーになってくれたクロヤマアリでしたね。
ただ、全ての新女王アリが順調に行くわけではありません。私が今飼育している2年目のコロニーは2年目で10匹弱ですから少々少なめ。
原因は様々だと思いますが、必ずしも上の例のように上手くいく訳ではない点は理解しておきましょう!
飼育環境・飼育ケース
私が使用している飼育ケースは石膏巣です。石膏巣の特徴は、水分を蓄えることができる点で、土の中に巣を作るアリに最適な飼育ケース一つと言われています。
5年目のクロヤマアリコロニーはアリの巣型の石膏巣を使っています。
2年目のコロニーは平型石膏巣を使用中です。
今まで石膏の飼育ケースで問題が起きたことは無いので、「クロヤマアリの飼育にどんな飼育ケースを使えばいいか分からない」とお悩みの場合は石膏巣を使ってみることをオススメします!
クロヤマアリにオススメの飼育ケース
- 石膏巣
- 試験管巣
- 土飼育
- プラスチック系飼育ケース(加水できるもの)
石膏巣以外にも、上記の飼育ケースでしたら飼育可能です。
クロヤマアリのエサ
飼育に欠かせないエサですが、クロヤマアリはアリの中でもトップクラスに何でも食べてくれる優良種です。そのため、エサで悩む必要は全くありません。
このあたりのエサを満遍なく与えて飼育しています。
ただ、「こんなにたくさん用意できない!」という場合、メープルシロップ、お肉、ゼリーだけでも十分に飼育することが可能です。
飼育時の注意点
クロヤマアリの飼育は基本的に容易な種類です。ただ、いくつか飼育前に知っておくべき注意点が存在します。それが下記の3点です。
クロヤマアリは光や振動に敏感
実はクロヤマアリ、他のアリと比較して振動や光を敏感に察知します。
そのため、
- 暗闇から明るい場所に頻繁に移動させてしまう
- 飼育ケースを頻繁に動かしてしまう
- 不安定な場所で飼育している
このような環境で飼育してしまうと、ストレスとなり「コロニーの成長が上手く行かない・・・」なんてことにも成りかねません。
特に、新女王アリ単体のときや初期コロニーのときはストレスを受けやすく、産卵と食卵を繰り返してしまう場合もあるのです。
飼育の際は、あまり刺激を与えないように丁寧に扱ってあげることがクロヤマアリ飼育を成功させる一つのポイントとなるでしょう。
冬前に卵や幼虫がなくなる
多くのアリの種類は、幼虫がいても幼虫のまま越冬します。
しかし、クロヤマアリは冬前には全ての幼虫が羽化して卵、幼虫が無い状態で冬を迎えることが多いです。
冬はアリたちにとって冬眠期間ですから、もちろん産卵もストップします。
女王アリと働きアリしかいない飼育ケースをみると、「大丈夫かな?」と心配になってしまうかも知れません。
しかし、春になれば再び産卵を再開し、それとともにコロニーも成長し始めます。
冬の間、変化の無い状態が続くと不安になるかも知れませんが、それが普通の状態ですので安心してくださいね!
乾燥は大敵
クロヤマアリだけの話ではありませんが、土の中に営巣する種類のアリは乾燥に極めて弱い生き物です。
石膏巣は水を蓄えておくことができますが、その保水力は1ヶ月程度と言われています。
また、「小型のケース」や「硬い石膏」を使用した石膏巣は数週間しか保水力が無いものも存在します。
そのため、定期的に石膏自体に水分補給する必要があるのです。
特に冬場は室内が乾燥しがちですから、巣が乾燥しないように十分に注意しながら飼育管理を行いましょう。
クロヤマアリって害はあるの?駆除したほうがいい?
最後にクロヤマアリと人との関わりについても書いておきます。
クロヤマアリの生活環境は人の生活環境と重なることが非常に多いです。
そのため、虫などが苦手な方々にとっては”厄介者”として見られている側面もあるのです。
例えば、
「お庭に巣を作られてしまった!」
「玄関のポーチをいつも歩いていて気持ち悪い・・・」
「駆除しても駆除しても出てくる!」
こんなことろでしょうか。
では、クロヤマアリは人に対して害のある生き物なのでしょうか。
実は全く害の無い昆虫なのです。
人を刺したりすることもありませんし、家の中を荒らすこともありません。
実害があるとすれば、”気持ち悪い”という不快感を与える部分くらいなのです。
ですから、お庭に出てくる程度であれば何もせずにクロヤマアリたちの暮らしを見守ってあげるのがベストだと言えるでしょう。
ただし、「どうしても苦手で…」という場合は、無理はせずに市販のアリ用のベイト剤や注入駆除剤を使って対策をしてみてください。
最近のベイト剤(アリメツやアリの巣コロリ)はアリを選択的に殺虫できるため、必ず効果があるはずです。
とは言え、出来る限り自然界のアリを駆除しなくて済むに越したことはありません。私個人的にも外のアリたちを駆除することは、積極的にオススメすることはできません。
まとめ
この記事ではクロヤマアリの特徴や女王アリからの飼育について網羅的に解説していきました。
東京に住んでいると、毎日必ず見かけるアリでもある「クロヤマアリ」。
実は飼育もしやすくて、アリ飼育にオススメのアリの一つでもあるのです。
一方で、隠蔽種の存在など、意外と奥が深いアリでもあります。
私自身、まだ5,6年の飼育歴ですが、今後も飼育を通してクロヤマアリの観察を続けていくつもりです。
今回ご紹介したクロヤマアリは最初の1種類としてもオススメできるアリですから、みなさんもアリに興味をお持ちでしたらこの記事を参考に飼育を始めてみてはいかがでしょうか?楽しいアリですよ♪