ヒアリ!ヒアリ!やばい!と騒がれていますが、過剰な対応は禁物です。日本の住宅地に定着した事実はありません。港湾や空港で対策がとられているおかげで、我々の日常生活において、ヒアリが定着した事実は見つかってはいないのです。
そんななか、ヒアリ対策用品を某薬剤メーカーが開発し、市販品としてホームセンターで売られているのは違和感しかありません。ヒアリ騒動で殺されてしまった日本の在来種のアリはどれくらいいるのでしょう。
もちろん、アリが生理的に無理って人もたくさんいるでしょうから、家の中や敷地で駆除するのは当たり前だと思ってます。でも、そもそも赤いアリってめちゃくちゃ沢山います。オレンジとかも含めちゃうと、さらにたくさんの種類が日本にはいるんですよね。ですから、アリの種類がわからないけど、「赤いから危ない!」「殺虫しなきゃ!」みたいな流れには絶対なってはいけないと思うのです。
ところで、最近はネットで検索しても、ネット系業者による間違いだらけの記事が蔓延ってます。これはこれで違う問題ですが、フリー素材ばかりの間違った記事が検索で上位に表示されてしまうのです…なんかこれもこれで違和感ですよね。しかも多くの人は検索上位の記事を信じてしまうでしょうし。
ということで、日本の赤いアリを噛み砕いてまとめてみました。日本の赤い在来アリへの理解と、ヒアリに対する正しい知識を多くの方々に持っていただきたいと思ってます。もしお付き合いいただけると嬉しいです!
目次
ヒアリの最新情報
※2024年1月14日更新:最新情報として、2023年11月16日に福岡県福岡市(博多港アイランドシティ)でヒアリが確認されています。これで2017年6月の国内初確認以降で18都道府県、合計111事例目となっています。
コンテナヤード外側のフェンス沿いでヒアリが発見されましたが、駆除が進められています。新たに国外から入ってきた可能性があると考えられています。
そのため、現時点では皆さんの周りにいる赤いアリがヒアリである可能性はほぼありません。今まで通り無闇にアリを殺虫するのでなく、わからない場合はカメラで写真などをとり関係機関に確認を取るようにしましょう。
※2023年度のヒアリ確認事例は環境省が公開しております。令和5年11月16日(木)に、環境省が毎年実施している定期的な調査において福岡県博多港アイランドシティ(ふ頭ゾーン)で採取したアリのうち1個体が、専門家による同定の結果、要緊急対処特定外来生物ヒアリ(Solenopsis invicta)であることが確認されました。
引用:博多港アイランドシティ(ふ頭ゾーン)におけるヒアリの確認について
日本の赤いアリ
主に関東地方のアリが中心ですが、日本に生息する赤やオレンジ色のアリは多くの種類が知られています。普段見かけやすいものを簡単にまとめました。
また、環境省でもヒアリに似ているアリの見分け方を公開しております。こちらも抜粋して転載しましたので合わせてご覧ください!
出典:環境省ヒアリ同定マニュアル
オオシワアリ
非常にヒアリに間違われやすいアリです。温暖な地域に生息する3mmほどのアリ。関東の沿岸部を北限として、西日本や南の地域を中心に生息します。このアリは東南アジアが起源と言われており、ヒアリ同様に外来種とも言えますが毒は持っていません。その場で比較はできないため、パッと見て判断が難しいかもしれませんが、オオシワアリはヒアリほどのツヤがないため区別できます。
働きアリはみんな同じ大きさをしています。(ヒアリは集団の中に色々な大きさ[2〜6mm]の個体が混じります)
大きさ
働き蟻:3mm
腹部と胸部を繋ぐ節(コブ)の数
2つ
オオズアリの仲間
アズマオオズアリの働き蟻
働きアリがヒアリと似ており、オオシワアリ同様に間違われやすい在来種です。オオズアリのほかに、アズマオオズアリやヒメオオズアリなどがいます。特にアズマオオズアリは体色が赤く、ヒアリと誤解されやすい種類です。
さらにややこしいのが、働きアリのほかに兵アリという大型の階級が存在する点です。(ヒアリには集団の中に様々な大きさの蟻が混じっています。この点が混同されてしまう可能性のある点です。)
ただし、オオズアリの働きアリと兵アリには大きさだけでなく、形にも大きな違いがあります。オオズアリの兵アリは、ひときわ頭が大きい特異な形態をしており、「オオズ(大頭)」という由来にもなっています。ヒアリの場合、大きさが違うだけで形態がオオズアリほど大きく違う訳では無いので見分けるポイントになるでしょう。
大きさ
オオズアリ
働き蟻:3mm 兵アリ:3.5mm
アズマオオズアリ
働き蟻:2.5mm 兵アリ:3.5mm
ヒメオオズアリ
働き蟻:1.5mm 兵アリ3mm
腹部と胸部を繋ぐ節(コブ)の数
2つ
キイロシリアゲアリ
黄色いアリですが、見方によっては赤色にも見えなくもないアリです。このアリは、働き蟻ではなく女王アリが人前に出てくる機会があるため「ヒアリじゃないか!?」と誤解されやすいアリですね。
キイロシリアゲアリは”シリアゲアリ”の仲間であり、その腹部が特徴的でヒアリと区別することができます。シリアゲアリの仲間は、腹部の先端が尖っており、ハートのような形状をしています。
キイロシリアゲアリは、9月ごろに羽の付いた女王アリが屋外に出てくるシーズンにあたり、外に飛び出してきたのちに羽を切り落として屋外や室内を徘徊します。そのときに「普段見たことがないオレンジ色っぽいアリだ!」とビックリされることが多いようです。形からして毒針を持っていそうなイメージを持たれると思いますが、人間に対しての毒性はありません。(非常に小さな針は持っていますが人間には問題ありません)
大きさ
女王アリ:7mmほど 働き蟻:2mmほど
腹部と胸部を繋ぐ節(コブ)の数
2つ
シリアゲアリの仲間
ハリブトシリアゲアリ
ハリブトシリアゲアリやクボミシリアゲアリは体色が赤く見える場合があり、ヒアリと間違われることがあるようです。上のキイロシリアゲアリと同じく腹部の先端が尖っておりハート型です。
大きさ
働き蟻:2~4mm
腹部と胸部を繋ぐ節(コブ)の数
2つ
ヒメアリの仲間
「赤アリ」などと言わるアリの代表ですね。ヒメアリは非常に小さく、1.5mmほどです。大きさがヒアリと見分ける最大のポイントですが、それ以外はヒアリに非常に似ています。ヒアリは全体的にツヤがありますが、ヒメアリも非常にツヤがある非常にキレイな光沢をもっています。
アジサイの枯枝に営巣するヒメアリ
ヒメアリの仲間に「イエヒメアリ」という外来種も日本で稀に見ることができます。イエヒメアリは、日本の屋外では冬の寒さに適応できないため、温かい建物に積極的に侵入する家屋害虫です。人間に害はありません。
大きさ
ヒメアリ
働き蟻:1.5mm
腹部と胸部を繋ぐ節(コブ)の数
2つ
アミメアリ
行列で巣の移動を行うアリです。非常によく見るアリです。アミメアリは真上から見ると腹部がまん丸で他のアリと容易に見分けることが可能です。”アミメ”の名前のとおり、頭部や胸部は網模様があり、ツヤがありません。
大きさ
働き蟻:2.5mm
腹部と胸部を繋ぐ節(コブ)の数
2つ
ケアリの仲間
5月頃、地表に姿を現すアメイロケアリ
アメイロケアリやキイロケアリはケアリの仲間のなかでも黄色い体色をしています。赤ではありませんが、ヒアリと間違われる可能性もゼロでは無いと思います。ケアリの特徴は、ぼってりしたお腹です。ヒアリを始めとするフタフシアリの仲間は、胸部と腹部を繋ぐ節が2つのためスマートに見えます。ケアリはその節が1つしか無いため、ぼってりした形をしています。
大きさ
キイロケアリ
働き蟻:2~3.5mm
アメイロケアリ
働き蟻:4~4.5mm
腹部と胸部を繋ぐ節(コブ)の数
1つ
ムネアカオオアリ
日本最大のアリです。ヒアリよりも大きく、カタチや色もよく見ると全く違います。
頭やお腹は黒色、胸部周辺が赤色です。それでも赤いからとヒアリに間違われがち。自然豊かな山地に普通に見られる蟻です。人間に対する毒はありません。
大きさ
働き蟻:7mm〜12mm
腹部と胸部を繋ぐ節(コブ)の数
1つ
アカヤマアリの仲間
アカヤマアリのほかにエゾアカヤマアリやツノアカヤマアリなど似た種類がありますが、それぞれ大きさも色も似ています。生息場所は比較的涼しい山地が中心になるため、ヒアリの活動可能域とは被らないと思われます。人間に対する毒はありません。エゾアカヤマアリやツノアカヤマアリは大きな蟻塚を作ることがありますが、北海道や本州の標高の高い地域にだけ生息します。
大きさ
アカヤマアリ
働き蟻:6〜7mm
エゾアカヤマアリ
働き蟻:4.5〜7mm
腹部と胸部を繋ぐ節(コブ)の数
1つ
ヒアリについて
日本では、今のところヒアリが定着した地域はありません(※1)。港湾や空港など、中国や東南アジアなどからの荷物が日本に到着する場所では、現在も尚ヒアリがコンテナに紛れ込むなどの侵入未遂が度々発生しています。これについては、日本に到着した荷物にヒアリなどの外来種が混入していないかを細かく管理していくしか方法は無いと思われます。
また、港湾から運ばれた荷物が内陸に輸送されたことで埼玉県などでもヒアリが確認されたことがあります。ただし、その土地に定着していたわけではなく、輸送物から見つかっている点は理解すべきかと思います。
生息地など
原産はブラジルやウルグアイなどの南アメリカです。近年はアメリカや中国、台湾、オーストラリアなどに侵入・定着し問題となっています。生息地では道路わきや芝生、公園や畑など開けた場所に営巣します。雑食性で、節足動物やトカゲなどを捕食します。そのほか甘露、樹液、蜜なども食べます。
極めて攻撃的で、節足動物のほか爬虫類、小型哺乳類をも集団で攻撃し、捕食することでも知られています。
大きさや特徴
出典:環境省ヒアリ同定マニュアル
働き蟻:2.5~6mm(大きさにばらつきあり)
全体は赤茶色。腹部は暗色です。
日本におけるヒアリの発見地
日本では2017年に初めて侵入が見つかって以降、港湾を中心に多くの場所で発見されています。しかし、現時点では日本では定着されておらず生息している地域はありません。
以下に、日本でこれまでヒアリが発見された場所を掲載します。発見後駆除されている(死亡個体の発見も含む)ため、定着し生息している地域では決してありませんのでその点お間違えないようご注意ください。
北海道
- 北海道苫小牧市苫小牧港
茨城県
- 茨城県常総市(コンテナ内のみ)
栃木県
- 栃木県宇都宮市(事業者敷地コンテナ内、個人購入品混入)
埼玉県
- 埼玉県狭山市(事業者敷地梱包材内のみ)
千葉県
- 千葉県千葉市(コンテナヤード)
- 千葉県成田市成田空港
- 千葉県船橋市(コンテナ内)
東京都
- 東京都品川区大井ふ頭
- 東京都江東区青海ふ頭
- 東京都大田区東京港中央防波堤外側コンテナふ頭
- 東京都大田区(事業者敷地コンテナ内のみ)
- 東京都府中市(※梱包材への死骸の混入)
神奈川県
- 神奈川県横浜市本牧ふ頭
- 神奈川県横浜市大黒ふ頭
- 神奈川県横浜市山下ふ頭
- 神奈川県川崎市(事業者敷地コンテナ内のみ)
- 神奈川県南足柄市(事業者敷地内に死骸1匹のみ)
静岡県
- 静岡県静岡市清水港
- 静岡県浜松市(コンテナ内)
愛知県
- 愛知県名古屋市
- 愛知県小牧市・常滑市・弥富市鍋田ふ頭
- 愛知県春日井市(事業者敷地コンテナ内のみ)
- 愛知県飛島村飛島ふ頭
- 愛知県瀬戸市(事業者敷地コンテナ内のみ)
- 愛知県愛西市(事業者敷地内のみ)
三重県
- 三重県四日市市四日市港
京都府
- 京都府向日市(事業者敷地コンテナ内のみ)
大阪府
- 大阪府大阪市大阪港
- 大阪府岸和田市・大阪市大阪南港
- 大阪府八尾市(個人購入品混入)
- 大阪府泉佐野市(コンテナ内のみ)
- 大阪府羽曳野市(事業者敷地コンテナ内のみ)
- 大阪府堺市(事業者敷地コンテナ内と周辺のみ)
兵庫県
- 兵庫県尼崎市(コンテナ内)
- 兵庫県神戸市神戸港
岡山県
- 岡山県倉敷市水島港
- 岡山県笠岡市(事業者敷地内荷物のみ)
- 岡山県井原市(事業者敷地コンテナ内のみ)
広島県
- 広島県広島市広島港
- 広島県呉市(事業者敷地内のみ)
- 広島県福山市福山港
福岡県
- 福岡県北九州市北九州港
- 福岡県福岡市博多港
- 福岡県福岡市博多区(事業者敷地コンテナ内)
佐賀県
- 佐賀県鳥栖市(事業者敷地コンテナ内のみ)
- 佐賀県みやき町(事業者敷地コンテナ内のみ)
大分県
- 大分県中津市(事業者敷地コンテナ内のみ)
基本的には、海沿いの地域が多いです。
ヒアリに関する過去の報道発表
※:2021年5月20日追記:東京都青海埠頭内でヒアリが確認されました。現時点では定着されたわけではなく、駆除作業が実施されています。
令和3年5月20日(木曜日)に東京港青海ふ頭内で確認されたアリについて、専門家による同定の結果、特定外来生物ヒアリ(Solenopsis invicta)と確認されましたので、お知らせします。本件は、環境省が一昨年秋から東京港青海ふ頭で継続的に実施している調査において確認されたものです。
引用:東京港青海ふ頭において確認された「ヒアリ」について
※2020年9月25日追記:愛知県飛島村の名古屋港飛島ふ頭でヒアリが確認されました。一定規模のコロニーを形成しており、営巣された状態で確認されています。発見された巣は駆除が行われましたが、周辺への「拡散」の有無について、今後も継続的に調査が実施されるとのことです。
しかし、発見場所はふ頭内に限られており、私たちが暮らす住宅地などではありません。そのため、現時点ではあなたの周りにいる赤いアリがヒアリである可能性はほぼゼロです。ですから、今まで通り無闇にアリを殺虫するのでなく、わからない場合はカメラで写真などをとり関係機関に確認を取るようにしましょう。
9月23日(水曜日)の調査において、一定の規模のコロニーを形成しており、多数の有翅(ゆうし)女王アリ(数十個体以上)を含んでいることが確認されたことから、殺虫剤を用いた緊急的な防除を実施しました。
愛知県では、引き続き専門家及び環境省と連携して、確認地点における確実な防除を実施するとともに、繁殖可能な有翅女王アリが周囲に分散した可能性を踏まえて、継続的な周辺調査を実施していきます。
引用:愛知県「名古屋港におけるヒアリの確認について(9月17日の続報)」
※:2020年6月15日追記:神奈川県横浜市の本牧ふ頭でヒアリの存在及び土中への出入りの確認がされました。現時点では定着されたわけではなく、駆除作業が実施されています。
令和2年6月4日(木曜日)に、南本牧ふ頭のコンテナ置き場及び本牧ふ頭D突堤より発見されたアリ(約300個体)について、環境省が依頼した専門家による種の同定の結果、特定外来生物であるヒアリと確認されました。
ヒアリが確認されたコンテナはくん蒸処理を行うとともに、ヒアリが確認された地点周辺には殺虫餌(ベイト剤)及びトラップを設置しています。
6月10日(水曜日)に、本牧ふ頭D突堤において実施した調査で、ヒアリの存在及び土中への出入りが確認されたため、現在、環境省等と協力して、ヒアリが確認された地点を中心に調査を実施しています。
引用:横浜市(横浜港におけるヒアリの存在及び土中への出入りの確認について)
※:2019年10月18日追記:東京都青海ふ頭で巣の中で羽つきの女王アリが50頭見つかったと発表されました。←2020年3月25日追記:その後定着については否定されました。
南米原産で強い毒を持つ特定外来生物のヒアリが東京港青海ふ頭で定着した可能性が極めて高いとの分析を、国の防除に携わる国立環境研究所がまとめたことが16日、分かった。国内の他の発見例と異なり、巣の中で成長したとみられる繁殖可能な女王アリが50匹以上見つかり、既に別の場所に拡散した恐れがあるとしている。定着が確定すれば初の事例となる。
引用:産経デジタル
まとめ
日本には、多くの赤いアリが生息しています。2017年のヒアリ騒動以降、日本の在来種アリのなかでも赤や黄色をしたアリがヒアリと間違われている現実もあります。日本でヒアリが定着していない以上は、普段見かけるアリについては、赤くても黄色くてもヒアリと混同して殺虫する必要はありません。それに、「ヒアリに対応」との謳い文句で販売している殺虫剤も全く必要ありません。
日本には固有のアリが300種近く確認されています。そのほとんどが人間に害のないアリだということを知ってほしいのと同時に、赤いアリへの正しい理解もぜひ多くの方々に知っていただきたいと思います!