アリを飼育するなら、まずは女王アリを採集することから始まります。アリと言っても、日本には様々な種類のアリがいるため、どんなアリを採集すればいいのだろう…、とお悩みではないですか?ということで、このページでは女王アリを採集する方法を解説します。
目次
アリを飼育する鉄則を知る
まず、アリを飼育しようと思ったみなさん。どんなアリを飼育しようと思いましたか?「大きくてカッコいいアリ」「クワガタのように大きな顎のあるアリ」「飼育が簡単なアリ」、アリを選ぶうえで、どんなアリを買おうか考え始めると、結構沼にハマります。多種多様なアリがいますので、どれにすれば良いか分からない…。そうなりがちなのです。
そこで、私が考えるアリ飼育の基本は、まずは「飼育が簡単なアリ」を飼育してみることです。いきなりかっこいい系のアリを飼育するのもアリですが、”生きた虫をエサにする必要”があったり、”温度管理が難しい”など、難易度が急に高くなってしまいます。ですから、はじめは潔く「飼育が簡単なアリ」から始めることをオススメします。
そこで、アリ飼育をする上での鉄則があるのですが、なんだかわかりますか?
それは、女王アリを飼育することです。
「そんなの知ってるよ〜!」という方は、先に進めて構いませんが、これは極めて重要です。仮に、そこら辺を歩いている働き蟻を何匹か採集しても、働き蟻は卵を産まないため(※例外あり)アリの巣が大きくなることはありません。しかも、働きアリの寿命はせいぜい1年ほどです。ですから働きアリを採集しただけでは、アリ本来の生活を見ることはできないのです。ということで、アリの飼育はまず女王アリ(もしくは女王アリを含むコロニー)を手に入れることから始まります。
▼女王アリ単体での飼育とコロニーでの飼育の違いはこちら
女王アリを採集する前の準備
女王アリを採集してから、飼育ケースを準備していては時間がありません。事前に準備しておくことが大切です。
初期のアリの飼育ケースはこのような形状のものが一般的です。石膏を敷いたプラスチックケースに、チューブで餌場を連結させた構造です。百均やホームセンターでちいさなプラケースを購入して作成できると思います。
もし、制作が難しいのであれば、アリ販売ネットショップで飼育セットが売られていますので、そちらを購入するととっても簡単です。
▼アリ飼育ケースの自作についてはこちら
女王アリを採集しよう!
女王様を招き入れる準備ができたら、女王アリを採集しましょう!
一応、ご説明しますが、女王アリを入手する方法は、
- 採集する
- 購入する
の2通りです。もし採集ではなく購入する予定なら、前述のアリ販売ネットショップで簡単に購入することができるのでオススメです。他にもオークションなどでも売られていますが、モノにより死着保証無しなどの場合が多く、購入する場合は自己責任って部分に気をつけましょう。
購入する場合、詳しくはこちらでまとめています。
では、ここで説明するのは、採集による女王アリの入手になります。
方法1.新女王アリを採集する
女王アリっていっても普段見かけることはありません。それは、巣の真ん中で働き蟻に守られながら生活しており、外に出てくることは基本的にあり得ないからです。ですからすでに多くの働き蟻を従えている現役の女王アリを採集するのは、初めて飼育する方には少しハードルが高いかもしれません。そこで、まず候補になるのが「新女王アリ」なのです。
新女王アリとは、既存の巣から飛び出して新しく巣を作る(生息域を広げる)ための女王アリのことです。世間一般的には、羽アリと呼ばれており、羽のついたアリが1年のある一定期間だけ大発生します。
巣から飛び出した羽の付いた女王アリは、飛行しながらオスの羽アリと交尾を済ませます。これを結婚飛行と言います。羽アリには女王アリとオスアリの2種類がいるのですが、同じ種類でも形態に相当な違いがあります。一般的に女王アリは大きく、オスアリは小さい体をしています。
その分、交尾を済ませた女王アリは、オスアリからもらった一生分の精子を腹部に蓄え、地上に舞い戻ります。そして、この先一生使わない羽を自分で切り落として、新たな巣を作るために土壌や枯れ木の中に潜り込むのです。
ここまでを終えることができた新女王アリでも、舞い降りた場所が巣を作るのに適していなかったり、外敵に襲われたりしてほとんどが命を落としてしまいます。
そこで私達が狙うのは、地上に舞い降り、羽を切り落として行き場を無くしてしまった女王アリを狙うのがベストです!例えば、アスファルト上であったり、マンションなどの外階段の灯火下付近だったりと、そこでは巣を作るのが困難な場所に意外と女王アリが落ちています。
また、面白いのが4月から11月ごろまでアリの種類ごとにシーズンをずらしながら羽アリ(新女王アリ)を飛ばすことです。これにより、その時期ごとに狙う女王アリが変わってくるのです。
4月の新女王アリ採集は「クロナガアリ」
一年でもっとも早く新女王を飛ばすアリです。日本で唯一の種子食で、主にイネ科の種子をエサにします。
4月上旬から下旬にかけて、暖かい日の日中に結婚飛行を行います。他のアリと同じく、前日〜早朝に雨が降った時に大飛行する傾向があります。畑や草原、公園の草地など日当たりが良く、イネ科の雑草が生える環境に生息します。飛行後は、女王アリが集団で固まって土を掘り進め、土の中に巣をつくります。
クロナガアリの女王アリ採集のポイント
- 結婚飛行当日なら土に潜る前に翅を落とした女王アリを目視で見つけて採集
- 土に潜ってしまった後でも、新たに土が掘られた形跡のある場所をスコップで掘り返すと女王アリの集団を採集
▼クロナガアリの結婚飛行についてはこちらもご覧ください。
5月から6月は中型〜大型のアリを狙う
梅雨前のこの時期は、大型のアリの結婚飛行が目立つ時期です。例えばクロオオアリやミカドオオアリ 、ムネアカオオアリなどです。中型のクロヤマアリも6月ごろを中心に結婚飛行を行います。
これらの中型〜大型のアリは女王アリの体長が10mmから18mmにもなります。アスファルトや歩道などを歩く姿を簡単に見つけることができるため、結婚飛行時期になると容易に採集することができます。
市街地ではクロオオアリとクロヤマアリ
市街地では、クロオオアリとクロヤマアリが比較的簡単に女王アリを採集することができます。どちらも公園や道端などに巣があり、普段から働きアリを見かける機会の多い種類です。クロオオアリは5月の昼過ぎから夕方ごろが中心で、やはり風がなく暖かい日に結婚飛行を行う傾向です。クロヤマアリ(上写真)は6月の昼前から昼過ぎにかけて結婚飛行を行います。
山地などではムネアカオオアリやミカドオオアリ
同じ時期、山地や森林ではムネアカオオアリやミカドオオアリ(上写真)が結婚飛行を行います。ムネアカオオアリは午後以降、ミカドオオアリは夕方ごろから結婚飛行を行うようです。
7月はケアリの女王を採集
この時期はいろいろな種類のアリが結婚飛行を行います。ですが、最初に採集するのであれば、トビイロケアリが最もおすすめです。トビイロケアリは公園や庭などの土中や樹木の根元付近に巣があるため、生垣や樹木があればどこにでも生息しています。
結婚飛行は夜に行われ、灯火に集まる習性があるため自動販売機(最近はLED照明に変わり集まりにくくなっている)や街灯に新女王アリやオスアリが集まります。
翌朝になるとその付近をうろつく新女王アリを容易に発見できるでしょう。
9月の女王アリは「キイロシリアゲアリ」を狙う
キイロシリアゲアリ?って多分聞いたことのない名前だと思います。このアリが9月を代表するアリです。そして、他のどの女王アリよりも採集が簡単なアリだと思います。
キイロシリアゲアリが羽アリを飛ばすタイミング
9月であれば簡単にキイロシリアゲアリの女王を採集できますが、タイミングが重要です。キイロシリアゲアリの羽アリが発生した日でないと採集は難しいので、その目安となるポイントをご紹介します。
- 夕方〜19時ごろに羽アリを飛ばす
- 羽を落とした女王アリは18時〜21時くらいが多い
- 雨の日は飛ばない
- 風が強いと飛ばない
- 雨あがり、晴天が数日続いた日に多い
- 湿度が高い
以上が今までの感覚での大発生(大飛行)タイミングになります。私が住んでいる場所は東京都ですから、地域で若干異なるかもしれません。
また、年により大発生する年があり、それらの日は、「湿度が高い」、「前日に比べ高温」という点が一致しています。必ずってことは無いと思いますが、参考にしてみてください。
キイロシリアゲアリの女王の特徴
実はこのアリには非常に面白い特徴があります。それは、飛行後に女王蟻が密集して集まることです。このアリは多雌性といい、女王アリが複数でひとつの巣(コロニー)を作り上げる特徴を持ちます。
そのためか、飛行した直後には写真のように道路の脇や隙間に集まったキイロシリアゲアリの女王を簡単に見つけることができます。この集団を見つけることが女王アリ探しの最大の近道です。
キイロシリアゲアリは灯火に集まる
そして、キイロシリアゲアリの女王アリ採集を最も簡単にしているのは、「走光性」の傾向が強いアリということです。走光性とは、街灯などの明かりに寄ってくる習性のことです。ですから、街灯の下を探すだけで見つけることができます。
ポイントは、草原や植物の多い公園の横にある一際明るい街灯です。または自動販売機などもいいかも知れません。街全体が明るい都市などではちょっと難しいかも知れないので、多少薄暗い場所がおすすめです。街灯の下が草などが生い茂っていると、地面に落ちた女王アリを見つけるのは困難です。ですから、街灯の下はアスファルトやタイルなどの舗装路の場所を選ぶと採集が非常に簡単です。
方法2:女王アリごと巣(コロニー)を採集する
新女王アリを採集するよりも難易度は上がりますが、初めての方でも採集することは可能です。特に、冬場は新女王アリを飛ばすアリがいませんので、冬に採集するつもりなら巣(コロニー)ごと採集する方法をオススメします。
冬場は冬眠状態のため、「枯れ枝」や「石下」、「朽木下」などを確認しながらコロニーを見つけます。詳しくは冬のアリ採集の方法を別記事で書きましたのでこちらをご確認ください!
女王アリの採集道具
ここまで季節ごとの女王アリ採集についてご説明しました。あとは実際に採集するのみですね!
採集には、吸虫管という道具を使うのがベストです。簡単な吸虫管の作成方法をまとめました!参考にご覧ください。
吸虫管なんて作ってられない!って方は、「小さなタッパー」と「筆」をご用意ください。できれば「ベビーパウダー」もあれば完璧です。
ベビーパウダーは、タッパーの横面から縁にかけて塗りつけます。こうするとタッパーに入れたアリが側面を登れなくなるので、脱走防止になります。筆は、アリを軽く突っつくことで筆にしがみつかせて、そのままタッパーまで持ってきて落とせばOKです!
吸虫管に比べると圧倒的に手間がかかってしまいますが、何匹か捕まえられたらOKでしょう。
女王アリは何匹採集するべき?
実は女王アリは種類によって最初の女王アリを単独で始める種類と複数匹で始める種類がいます。今回ご紹介した種類を中心に、簡単にまとめます。
名前 | 女王の構成 | 女王数の目安 |
---|---|---|
クロナガアリ | 多女王制 | 4匹〜 |
クロオオアリ | 単女王制 | 1匹 |
クロヤマアリ | 単女王制 | 1匹 |
ムネアカオオアリ | 単女王制 | 1匹 |
ミカドオオアリ | 単女王制 | 1匹 |
トビイロケアリ | 単女王制 | 1匹 |
キイロシリアゲアリ | 単女王制 | 4匹〜 |
基本は単女王制で1匹だけで始めましょう。クロナガアリやキイロシリアゲアリは複数の女王アリが協力しあってコロニーをつくります。4匹から10匹くらいを目安に採集しましょう。
多女王制のアリは一つのコロニーに女王アリは4匹~くらいから成長が早くなります。キイロシリアゲアリを例に挙げると、我が家には4匹、5匹、2匹、7匹のコロニーがありますが、この中では7匹のコロニーの成長が圧倒的に早かったです。逆に2匹のコロニーはかなり成長が遅いですね。
ただし、女王アリの数が多すぎると働きアリが羽化してから女王アリが淘汰され数がすぐに減少します。多くても10匹、できればそれ以下が個人的なおすすめです。
女王アリを採集したら
女王アリを採集したら、早いうちに湿度の高い環境に移してあげましょう!ほとんどの種類のアリは乾燥に弱いので、乾燥した場所で飼育すると失敗します。巣に石膏を敷くのは、石膏に水を染み込ませて保湿できるからなのです。
もし、石膏などの環境を用意できないのであれば、「メラミンスポンジ」やコーヒーの「ペーパーフィルター」に水を染み込ませて飼育ケースに入れてあげてください。これら2つは保湿しつつ、カビが生えにくいのでオススメです。
乾燥を好むアリもいます
上記で説明したアリの中で、ミカドオオアリは乾燥を好むアリです。乾燥を好む理由は、枯れ枝や樹上に巣を作る種類だからなのです。
もしも乾燥環境を好む種類の女王アリを採集したなら、過度の加湿はせず適度な湿度環境で飼育をする必要があります。
エサを与えてもOK
本来は、飼育ケースに移したら安静にしておくのがいいのですが、エサを与えても大丈夫です。
自然界において、新女王アリは自分の巣穴を掘ったら入り口を封鎖して、自分たちだけの空間をつくります。そしてその中で産卵し、幼虫から蛹、羽化までを女王蟻だけで世話をします。その期間、ずっとエサを取りに行くことはありませんので、自分のお腹に蓄えた栄養だけで生き残ります。ですから、実際のところエサを与える必要はありません。
しかし、エサを与えるとほとんどの女王アリはエサを食べます。そして、成長が早くなります。失敗することも減ります。ということは、与えて損はないのです。もしもあなたが自然界の状態を観察したいのであれば別ですが、これからずっと飼育していくつもりなら与えてみても良いかも知れません。
ただし、同時にダニが発生する可能性も高まりますので、ちょっと管理が心配…という方は十分に考えてから与えてみてくださいね!
オススメのエサ
女王にオススメのエサをご紹介します。
- (最強)クワガタ用プロゼリー
- (普通)メープルシロップ
- (あれば)はちみつ
こんなところでしょうか。実は女王アリと幼虫の成長にはタンパク質が関係します。その点、クワガタ用の高タンパク質ゼリーはかなりオススメです。実際どのアリにも食いつきがいいです。他のおすすめも基本アリが好きなエサなので女王アリも食べてくれるはずです。
与えるエサの量
アリってすごく小さな生き物なので、食べる量もとっても少ないです。なので与えすぎには要注意!飼育ケース内で腐ったら面倒ですからね。
最初の頃は、写真のようにチューブを縦に切って餌皿にして与えるといいですよ。この餌皿でも大きいので、餌皿の半分以下のスペースにエサを入れて与えるのがベストです。
エサの頻度
新女王アリは働きアリが誕生するまで、エサを食べないのが本来の姿のため、与える頻度は1回だけでも十分です。逆に与えすぎはストレスにもなるため、なるべく最小限にしてあげましょう。働き蟻が生まれたら頻繁な餌やりが必要になります。
産卵までは安静に
採集したらすぐに産卵をはじめるアリもいますが、キイロシリアゲアリなどは時間がかかる場合が多いです。なかなか産卵を始めなくてケースをしきりに動かして様子を見てしまいがちですが、それは禁物!ストレスを与えてしまい逆効果です。
また、秋に結婚飛行をするアリを採集した場合、10月以降になると部屋が寒くなることがありますが、もちろん自然環境と同じで低温で管理すれば翌春に産卵が始まります。一度低温で管理したあと保温してあげると、場合によっては年内に働きアリが誕生することもあるそうですよ。ただし、私の家の環境では秋に採集した個体は翌春まで室温で管理し、翌年3月ぐらいから(温度環境により違うと思います)産卵をしてくれます!
女王アリ採集からワーカーの羽化まで
アリの種類や採集する時期によっても産卵のタイミングや働きアリ誕生までの時間は異なります。例えばクロヤマアリは1ヶ月前後で最初の働きアリが羽化します。
2019年に私が飼育開始したアメイロオオアリは採集から49日で最初のワーカーが誕生しました。
新女王アリの種類ごとの羽化までの目安
※あんつべ自宅環境調べ
種類 | 採集から羽化まで |
---|---|
クロヤマアリ | 1ヶ月前後 |
クロオオアリ | 40〜50日 |
ムネアカオオアリ | 50日前後 |
アメイロオオアリ | 50日前後 |
ムネアカオオアリ高山型 | 翌春 |
トビイロケアリ | 30〜40日 |
キイロシリアゲアリ | 翌春 |
1年経過すると、これほど立派なコロニーに成長します。今回ご紹介したアリは何でも食べてくれるので採集後の飼育が非常に楽ですね。
女王アリ採集後のアリ飼育について、より詳しくまとめた記事を書きました!必要な道具などもご紹介しています。合わせてご覧ください!
まとめ
アリの飼育は「女王アリの採集」がとっても大切です。今回ご説明したように、アリの女王は1年中採集することができます。春から秋は「新女王アリ」を、冬は「冬眠しているアリを巣(コロニー)ごと」採集するのがおすすめです。もちろん、「採集やっててみたけど見つからなかった・・・」という場合もあるでしょう。そんなときは今ではアリを購入することもできます。アリ採集が難しいと感じたら、ネットのアリ専門ショップで最初の1コロニーを購入して飼育するのも悪くは無いと思います。そこから何度かチャレンジしてみて、ご自身でも女王アリを採集してみてはいかがでしょうか。
初めて女王アリを採集したときは、私はキイロシリアゲアリでした。その時はとても嬉しかった気がします。ぜひ皆様にも女王アリ採集の楽しさを味わって欲しいな、と思いますので、この記事を参考にぜひチャレンジしてみてください。